2022.06.29

運送業界

法令違反によって運送会社が受ける行政処分とは?

目次

自動車運送事業には、遵守しなければならない法令が数多く存在します。
運送会社には、安全性を重視した事業運営が求められるのです。
しかし、万が一法令に違反した場合には、然るべき行政処分を受けねばなりません。

この記事では、運送会社が受ける行政処分の内容について解説します。

行政処分とは

自動車運送事業に従事する運送会社は、道路運送法や貨物自動車運送事業法等に基づく事業運営が求められます。

 

自動車運送事業を管理する国土交通省の地方運輸局では、法令遵守と安全な事業運営の維持を目的として、定期的に監査が行われています。

 

主な監査実施理由には、事故の発生や法令違反の疑い、運送に関する苦情などを挙げることができます。監査は運輸局の担当者により監査規則及び方針に基づき実施され、違反が発覚した際には内容に準じた処分が下されます。

 

監査の種類

 
  • 特別監査(重大な法令違反の可能性など、厳格な対応の必要性が認められる事例に対して行われる監査)
  • 一般監査(特別監査に該当しない監査。予め定められた事項に則り法令の遵守等を確認する)
  • 街頭監査(実際の運行状況を確認するために行われる監査。対象者を特定せずに抜き打ちで行われる)
 

運輸局による監査により何らかの法令違反が発覚した運送会社には、法令に基づいた処分が課せられます。これらの総称が「行政処分」であり、違反内容に応じて様々な処分が存在します。

運送会社が受ける行政処分の制度と種類

監査によって何らかの法令違反が明らかになった場合には、特定の制度に基づき然るべき行政処分が課せられることになります。
 

制度について

処分日車数制度

法令違反の項目に従い、処分日車(処分に該当する車両と期間を定めた表現)を一定期間使用できなくなる制度です。使用できなくなる車両の台数は、運送会社に所属している車両数が大きく影響します。

 

〈例〉 10日車 = 1台の車両を10日間使用できなくなる

違反点数制度

国土交通省が導入している罰則を管理する制度です。違反点数制度は運送会社が運営する事業所単位で適用され、違反に応じて加算されます。

 

処分日車数制度に基づき違反点数が設定されており、違反により加算された点数は3年間累積します。

 

点数に応じて下される行政処分にはいくつかの種類があり(以下に記述)、累積点数の合計に比例し、より厳格な行政処分が下されることになります。

種類について

①車両使用停止

法令違反が発覚した事業用自動車を、処分日車数に基づく期間に準じて使用停止にします。違反内容によって処分の対象となる車両の台数や期間は異なり、規定期間内は該当車両を一切使用することができません。

 

また、自動車検査証の返納及び、自動車登録番号標の領置が義務付けられています。

 

処分車両数の基準

 

 処分日車数

  「X」

          所属する事業用自動車の数

  〜10両

 11両〜20両

 21両〜30両

  31両〜

 〜10日車

1両

1両

1両

1両

 11〜30日車

1両

2両

2両

2両

 31〜60日車

1両

2両

3両

3両

 61〜80日車

2両

3両

4両

5両

 

  81日車〜

             

           Y+(X−80)/10

 

②事業停止

法令違反を犯した対象事業所の業務を、一定期間禁止する処分です。処分が下された場合には、基本的な事業全般を30日間行うことができません。

 

事業停止処分は重大な法令違反に該当するいくつかの条件及び、上述した違反点数制度に基づき決定されます。

 

事業停止処分の条件

 
  • 運送事業に従事する運転者の勤務及び運転時間の基準が遵守されていない場合
  • すべての運転者に対して点呼が全く実施されていない場合
  • 事業用自動車について法令に基づく定期的な点検や整備が行われていない場合
  • 整備管理者が不在である場合
  • 運行管理者が不在である場合
  • 名義を他人に利用させていた場合
  • 運送事業の貸渡し等を行っていた場合
  • 国土交通省による検査を拒み、妨げ、質問に対して虚偽の陳述を行った場合
 

違反点数の累積による事業停止処分の条件

 
  • ◯同一の運輸局が管轄する地域における違反点数の累計30点を下回る事業所が、270日車を上回る処分日車数を受けた場合 → 対象事所業の事業停止
  • △同一の運輸局が管轄する地域における違反点数の累計31点を下回る事業所が、180日車を上回る処分日車数を受けた場合 → 対象事業所の事業停止
  • ◇同一の運輸局が管轄する地域における違反点数の累計が51〜80点を下回る場合 → 対象事業所及び同一の運輸局が管轄する地域内にあるすべての事業所
 

◯△◇による事業停止期間

 
 

              処分日車数

179日車を下回る

180〜269日車

270〜359日車

360〜499日車

500日車以上

◯の事業所

  —

  —

  3日

  7日

  14日

△の事業所

  —

  3日

  7日

  14日

  —

◇の事業所

                3日

 

③許可取消

運送事業を行うために必要な申請許可が取り消されます。3種の行政処分の中で、最も厳格な処分です。

 

許可取消処分の条件

 
  • 違反点数の累計が81点以上となった場合
  • 事業停止処分を受けた事業者の3年以内における同一違反があった場合
  • 特定の命令に従わず行政処分を受けた事業者が、3年以内に同一の命令・行動を起こしたことが認められた場合
  • 事業者の所在が不明で、一定の期間事業の実態が確認できない場合 など
 

〈参考〉国土交通省 自動車総合安全情報 「貨物自動車運送事業に対する行政処分等の基準について」 

行政処分を受けるとどうなるのか

法令に基づいた行政処分を、回避することはできません。行政処分を受けることによって想定される状況は、以下の通りです。

経営状況の悪化

車両使用停止処分や事業停止処分を受けた事業者及び事業所は、経営面で大きな損失を受けることになります。運送事業に関する行政処分は罰則期間が長期に及ぶことから、業務停止による業績の悪化や、それに伴う倒産などの可能性も考えられるでしょう。

 

許可取消処分を受けた場合、再度の許可を申請するためには処分の執行から5年が経過していなければなりません。いずれの場合でも、深刻な経営難に陥る可能性は否定できません。

 

〈参考〉貨物自動車運送事業法 第5条「欠格事由」


運送業者の信頼低下

国土交通省では事業の安全性や健全な事業推進を目的として、事業者の行政処分情報を公開しています。Webサイトでは具体的な日時、事業者の指名・事業所の名称、所在地から行政処分の内容まで、すべての詳細を閲覧することができます。

 

これらの行政処分情報は、運送業者の信頼低下に繋がります。就労希望者や事業利用者の数字に影響が出るばかりか、労働者の組織離れを招く可能性もあるでしょう。

まとめ

厳格な法令に基づき、詳細が決められている運送事業における行政処分。一度でも行政処分を受けると、様々な罰則が発生します。運送事業に従事する場合には、すべての法令を確実に遵守しなければならないことを肝に命じておきましょう。

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