2023.02.06

危機管理

トラック業界の労災は増えている! 主な理由と労災の条件

労務従事中に発生した、心身に支障をきたすような損害を「労働災害」と呼びます。怪我や病気、死亡、また過労などによる精神的負荷によって認定される労働災害。これらの損害を被った労働者や家族に対し、保険を給付する制度が「労働災害保険制度」です。

様々な業界で必要になる労災保険ですが、トラック業界においても例外ではありません。この記事では、トラック業界における労災発生の理由や、補償に関する条件について解説します。

目次

トラック業界の労災は増加傾向にある

令和以降、陸上貨物運送事業(トラック業界を含む)における、労働災害の発生件数を確認してみましょう。「陸上貨物運送事業労働災害防止協会」が公開している労働災害状況では、以下のような結果が出ています。

陸上貨物運送事業における死亡及び死傷災害発生状況

2020年(令和2年) 2021年(令和3年)
死亡者数 87 死亡者数 95
死傷者数 15,815 死傷者数 16,732
 

陸上貨物運送事業における死傷災害の型別発生状況TOP3

2020年(令和2年) 2021年(令和3年)
墜落・転落 4,315 墜落・転落 4,496
転倒 2,604 転倒 2,813
はさまれ・巻き込まれ 1,589 はさまれ・巻き込まれ 1,605

死亡数・死傷者数共に、ここ数年の労働災害発生件数は増加し続けていることがわかります。死傷災害において特筆すべきは、原因の多くが交通事故ではなく、労務中の「墜落・転落」、「転倒」、「はさまれ・巻き込まれ」など、作業行動中の災害である点です。これらの数字からは、トラック業界における労働災害保険制度の高い需要を伺うことができます。

〈参考〉陸上貨物運送事業労働災害防止協会 労働災害発生状況 
 

トラック事故で労災が下りる条件

労働災害認定のためには、いくつかの条件を満たさねばなりません。労働災害は、労働者が業務中に被った災害である「業務災害」と、労働者が職場への通勤中に被った災害である「通勤災害」に分かれています。いずれかの災害により、損害が発生したことを証明することで、労働災害認定がなされます。

業務災害に該当する条件

業務災害は、「業務遂行性」と「業務起因性」と呼ばれる2つの要件によって判断されます。

「業務遂行性」とは、労働者が被った災害が、業務中に発生したことを確認するための要件です。具体的には、労働者が労働契約に基づき、かつ事業主の支配下にある状態で業務を行っていることの有無が焦点となります。(※労働環境により、一部例外あり)

「業務起因性」とは、労働者が被った災害が、業務に起因するものであることを確認するための用件です。労働者が事業主の支配下にある状態で、業務に従事していることの有無が焦点となります。(※労働環境により、一部例外あり)

通勤災害に該当する条件

通勤災害として認可されるためには、災害を被った際の移動が、業務に付随するものであることが重要です。具体的には、住居と職場の往復や業務の都合によって発生した移動、引っ越しのための移動や、単身赴任先と自宅の往復などが該当します。

ただし、通勤災害と認められるのは、あくまでの業務上必要と考えられる合理的な移動のみです。職場からの移動であっても、本来の通勤経路を逸脱した移動や、業務とは関連性の低い私的な移動中の災害は、労災として認められない可能性が高いでしょう。

トラック運送事業で認可される労災の主な理由

トラック運送業界において、労災認定がなされる理由は様々です。業務の特性上、労働災害として認可されやすい主な理由をまとめました。

交通事故

運送業に従事する者にとって、常につきまとうリスクが交通事故です。業務中や通勤途中に交通事故に巻き込まれた場合には、労災として認定される可能性が高いでしょう。

補償に関しては、基本的に事故を起こした加害者が加入している自賠責保険や任意保険で賄われます。ただし、保険や事故の内容次第では、※労災保険が適用される可能性もあります。(※加害者が加入している任意保険の内容によって補償の範囲が異なるため)

慢性的な体の不調

特定の業務に長期間従事していたことが原因で、体になんらかの不調をきたした場合です。トラック運送事業では、重量のある荷物を取り扱う業務が日常的に発生します。

労働基準法施行規則には、法律の認定基準に基づいた、労災保険の具体的対象内容が明記されています。腰痛や運動器障害(※一部抜粋)などは、身体に過度の負担が掛かった事による疾病と認可されており、労災として認められています。

精神障害

労災認定の範囲は、物理的な損害だけではありません。業務が原因となった心理的負荷による精神障害も対象範囲となります。

上述の労働基準法施行規則には、精神障害に関する記載を確認することができます。パワハラやセクハラ、時間外の長時間労働など、心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務に起因する精神障害や付随する疾病は、労災認定の範疇です。

労働環境の向上には働き方改革が必要

トラック運送業界の労働災害の発生件数は、増加傾向にあります。発生した労働災害は正しく認定され、労働災害保険が適用されなければなりません。しかし、労働災害自体の発生件数を減らすためには、業界全体の労働環境を改革しなければなりません。

トラック運送業界では、労働基準法から逸脱した長時間労働や不規則な勤務体制、低賃金が原因となる慢性的な人手不足など、多くの問題を抱えています。

厚生労働省は、自動車運送事業業界の働き方改革の一環として、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」を改正し、2024年(令和6年)4月1日から改正案が適用されることを発表しています。

自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)

   1年の拘束時間  1か月の拘束時間  1日の休息時間
改正前 3,516時間 原則:293時間
最大:320時間
  継続8時間
改正後(令和6年4月〜) 原則:3,300時間
最大:3,400時間
原則:284時間
最大:310時間
継続11時間を基本とし、継続9時間

また、全日本トラック協会では、「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」の中で、2024(令和6年)年までに時間外労働年間960時間超のトラック運転者が発生する事業者の割合を撲滅する目標を掲げています。

取り組むべき課題としては、生産性の向上や事業者の経営改善、適正取引の推進や人材の確保などを打ち出し、業界の労働環境向上に努めています。

トラック運送業界全体の労働環境向上のためには、上述の法改正と共に、業界全体としての高い問題意識が必要なのです。

〈参考〉
厚生労働省 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
全日本トラック協会 トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン 

 

まとめ

トラック運送業界の、労働災害発生件数は増加しています。トラック業界に従事する者は、労働災害及び労災保険の内容を、正確に把握しておく必要があります。一人ひとりが業務に対する高い意識を持つことが、労働環境向上の第一歩となるでしょう。

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