2023.02.26

運送業界

パイロットの飲酒問題と航空業界の飲酒対策について

道路交通法の改正によって厳罰化が進む飲酒運転。ただし、飲酒運転問題は、航空機によって人や物を運ぶ航空業界にも存在します。

この記事では、航空運送事業者や運航乗務員の飲酒に関する法律や、講じられている対策について解説します。

目次

飲酒運航の基準

従来の航空業界では、飲酒運航に関する具体的な判断基準はありませんでした。

しかし、度重なる飲酒の関与が疑われる事故の発生を憂慮し、国土交通省は2019年(平成31年)に新たな基準を制定しました。

民間の航空機の運航や障害の防止を目的とした航空法には、具体的な基準が示されています。航空法による罰則の対象は、事業用・自家用に関わらず国内・海外を運航するすべてのパイロット及び客室乗務員に及びます。

具体的な飲酒基準:「血中濃度:0.2g/ℓ未満、呼気中濃度:0.09mg/ℓ未満」

上述の基準は、道路交通法に基づく車両の飲酒運転に比べて厳しい水準となっており、航空業界における飲酒の厳罰化が伺える内容です。

運航乗務員の飲酒に関する法律

飲酒基準の制定に伴い、航空業界に従事する運航乗務員及び関連従業員には、様々な義務が課せられています。

航空運送事業者は、航空業界を管轄している国土交通省の内部部局に対し、航空法に定められている様々な義務を負っています。以下に、具体的な内容を記載します。

アルコールの検査義務

運航や整備に関係する従業員である「パイロット」「客室乗務員」「整備作業者」「運航管理者」には、アルコール検知器を用いた飲酒検査が義務づけられています。

基準値以上のアルコールが検知された場合や、検査時の不正(未実施やなりすましなど)が発覚した際には、業務を行うことができません。

中でも、パイロット及び客室乗務員は、飲酒による業務が重大な事故を引き起こす可能性が高い役職です。該当する業務に従事する者には、乗務前後のアルコール検査と、業務前8時間以内の飲酒が禁止されています。

アルコールに関する知識の提供と依存症に対する対応義務

航空法では、航空運送事業者に対して安全管理規程及び運航、整備規定の策定と届出を義務づけています。

アルコール教育と依存症の職員などの発見や、対応に関する対策の整備は安全管理規程に該当します。経営者を含む事業関係者は、航空法に基づいた対策に準じなければなりません。

不正や不適切な事態に対する報告義務

業務を遂行する上で、飲酒に関する法律違反(飲酒者の発覚やアルコール検査の不備など)が発生した場合には、速やかに航空局へ報告する義務があります。

飲酒対策に係る体制の強化義務

航空運送事業では、業務を統括管理するために事業者から選任される安全統括管理者の存在があります。安全統括管理者は飲酒対策を明確にし、必要な体制を整備することを義務づけられています。

航空運送事業者における飲酒対策

飲酒運航における具体的な基準の制定に伴い、各航空運送事業者は飲酒に関する防止策を講じています。ここでは、国内で航空運送事業に従事する企業が実施している具体的な対策例を紹介します。

企業全体としての対策

組織としての啓発・啓蒙メッセージの発信


社長や代表者による呼びかけや、内部啓発活動を積極的に行う対策です。組織全体にメッセージを発信することで、禁酒意識を向上させる狙いがあります。

アルコールに対する教育の促進


教育プログラムや研修、勉強会など、従業員の見識を深める機会を増やしている企業も存在します。飲酒による影響や、事故などのリスクについて学ぶことで、飲酒に対する危険意識を育みます。

パイロットに対する対策

記録式アルコール検知器の配備と貸与


勤務地におけるアルコール検知器の配備や、携帯用のアルコール検知器を個別に貸与する対策です。いついかなる場所でも、アルコール検査が可能な環境を整えることで、飲酒の有無を速やかに判断することができます。

アルコール検査時における第三者の立ち合い


検査の際には、必ず第三者が立会います。検査結果の隠蔽やなりすまし、未検査などの不正をなくすための対策です。

法律の範囲外における禁止事項の付与


法律で定められた規定以外に、独自の規則を設けている企業も存在します。乗務前における8時間以上の飲酒禁止や、滞在先での飲酒禁止など、厳格な規則を設けることで飲酒対策を徹底しています。

客室乗務員や整備・運航管理者に対する対策

始業時の呼気検査の徹底


始業時におけるアルコール検査を徹底することで、飲酒の有無を確認します。

事業所におけるアルコール検知器の配備


各従業員が配備されている事業所や、現場にアルコール検知器を配備します。随時検査が可能な環境を整えることで、飲酒者の早期発見に努めます。

その他の関係者に対する対策

事業所や空港内で車両を運転するスタッフに対するアルコール検査の徹底


業務に際して、航空機以外の車両(自動車や二輪車など)を扱う従業員に対する対策です。

飲酒問題と疲労リスクの双方を考慮した対策が必要

航空業界従事者の飲酒対策には、業務による過労を考慮する必要があります。

航空運送サービスは24時間365日休まず稼働しており、航空業界従事者は不規則な勤務や長時間の業務を課せられることも珍しくありません。

過労による肉体的な疲労や、精神的なストレスによって飲酒量が増加する可能性を否定することはできないでしょう。2009年にアメリカで発生した航空機事故では、パイロットの過労が原因で起こった操縦ミスにより、乗客乗員すべてが亡くなっています。この事故は、疲労の蓄積と重大な事故の関係性を証明するものとなりました。
 
国土交通省は、2017年に「安全管理体制の構築に関わる一般指針」を改定。各航空会社に対し、疲労リスク管理(FRM:Fatigue Risk Management)の導入を義務づけています。
 
この改定により、安全管理規定に疲労に関する安全情報の収集、対応、教育や、事業従事者自身が疲労を管理すること、事業者が事業従事者の疲労を考慮することなどを明記することが義務づけられました。
 
疲労と飲酒の直接的な因果関係を証明することはできません。しかし、蓄積した疲労を解消する方法の一つに、飲酒が存在することは間違いないでしょう。

航空業界の事故を撲滅するためには、疲労リスク管理と飲酒対策を同時に推し進めていかなければなりません。
 

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