2023.12.27

運送業界

バス業界における「2024年問題」とは? 働き方改革関連法との関連について

物流業界において問題視されている「2024年問題」は、貨物運送事業だけでなく旅客運送事業にも影響を及ぼしています。労働時間の規制と慢性的な人手不足によって生じる様々な懸念事項。この記事では、主にバス業界における2024年問題と法律の関係、影響について解説します。

目次

「2024年問題」とは

2024年問題とは、「時間外労働の上限規制」および、その他の関連法における労働基準見直しにより生じる様々な問題の総称です。

時間外労働の上限規制の内容

時間外労働の上限規制とは、2019年より施行されている「働き方改革関連法(改正労働基準法)」により規定された法律です。自動車運転者の長時間労働を防ぎ、労働条件の向上を図るための一環として基準等が設けられました。
 
法律はすでに施行されていますが、物流業界や建設業界など、一部の職種に関しては労働環境や業務内容を考慮し、2024年の4月まで施行が猶予されています。

バス業界の具体的な懸念点

労働環境の健全化や、労働者の心身の健康を守るために施行された時間外労働の上限規制。しかし、バス業界など、慢性的な人手不足に悩まされている業界では、時間外労働を制限することで業務に悪影響が発生する懸念があるのです。
 
時間外労働の上限規制によりドライバーの業務時間が短縮されることで、路線バスのダイヤに乱れが生じるなど、様々な悪影響が予想されます。
 
慢性的な人手不足が改善されないままの時間外労働の規制は、運行便数の減少や廃止を生み、サービス利用者はもちろん、事業者やドライバーの利益も圧迫します。最悪の場合には、特定の地域一帯から路線バス事業所自体がなくなってしまう可能性さえ秘めているのです。
 
時間外労働の上限規制によるバス業界の主な懸念事項
 

  • ●平日の昼間や夜間など、乗車数の少ない時間帯における運行本数減便
  • ●基礎路線数や運行本数の減便・減少・短縮
  • ●過疎地域など、需要の少ない地域からの事業所撤退
  • ●通勤・通学時間帯の車内混雑
  • ●乗車運賃の値上がり など
 
〈参考〉厚生労働省 「働き方改革関連法」の概要 

2024年4月からの変化は? バス業界における新旧労働基準比較

2024年4月からは、時間外労働の上限規制施行と共に「改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)」の改正に伴い、拘束時間の上限についても基準の見直しが行われています。以下に具体的内容について確認します。

バスドライバーの時間外労働時間の上限規制基準

現在(2024年4月以前)       見直し後(2024年4月以降)
法律上の残業時間の規制はない ・原則として月45時間、年360時間(限度時間)以内
・上限は年960時間

バスドライバーの拘束時間上限の変化

  現在(2024年4月以前) 見直し後(2024年4月以降)
1年間の拘束時間 3,380時間 原則:3,300時間
4週平均1週1ヶ月の拘束時間 【4週平均1週間】
原則:65時間(月換算:281時間)
最大:71.5時間(月換算:309時間)
【1ヶ月の拘束週間】
原則:281時間
最大:294時間
※281時間を超える月が4ヶ月を超えて連続しないこと。
※4週平均1週の拘束時間も同水準で存置。1ヶ月と選択可。
1日の休息時間 継続8時間 継続11時間を基本とし、9時間下限
・拘束時間(労働時間や休憩時間を含んだ、物理的に拘束されている時間)
・休息時間(雇用主や使用者の物理的拘束を受けない時間)

主な変更ポイント

2024年4月から適用される改善基準告示の、主な変更点を記載します。

①拘束時間
②運転時間
③休息時間
④トラブル(予期しない事象)の場合
 

①拘束時間

1日13時間を超えないものとし、最大拘束時間は15時間です。1週間の中で、14時間を超える回数はできるだけ少なくなるように努めなければなりません。

②運転時間

1日当たり9時間、4週を平均して1週当たり40時間を超えないものとすることが原則です。連続運転は4時間を超えてはいけません。ただし、高速バス、貸切バスの高速道路の連続運転時間は、おおむね2時間までとするように務める必要があります。

③休息時間

勤務間の間隔(勤務から次の勤務までの間)は原則として、9時間を下回ってはいけません。困難な場合には、一定期間における勤務回数の2分の1を限度に、休息時間を拘束時間の途中などに分割して取得する必要があります。

④トラブル(予期しない事象)の場合

事故や災害など、トラブルに遭遇した際には、勤務終了後に通常勤務通りの休息時間を消化することが可能です。

バスドライバーの範囲について

改善基準告示が適用されるのは、路線バス事業に従事しているドライバーのみではありません。路線バス以外にも、主として人を運送することを目的としたバス運転業務に従事する者(旅館やホテルの送迎バスのドライバー、スクールバスのドライバーなど)も、改善基準告示の対象バスドライバーに該当します。
 
〈参考〉厚生労働省 バス運転者の改善基準告示
    厚生労働省 バス運転者における労働時間の上限規制説明会

「働き方改革関連法」施行後のバス業界における課題

法律の改正によって慢性化する長時間労働が是正されても、バス業界には低賃金や人手不足などの問題が依然として残っています。強制的な法律の介入によって、以前にも増して低賃金化や人手不足が加速してしまう可能性も懸念されます。
 
政府は2024年問題に対応するために、自動運転などのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する経済対策を発表しています。しかし、バス・タクシーなどの旅客運送事業を運営する組織の大部分は中小企業であり、DXを実現する時間や経済的体力はありません。
 
バス会社や各事業所・営業所は、労働環境や待遇改善を図りつつ、中途採用や時短勤務採用、情報通信技術(ICT)の導入やダイヤの再編などに力を入れています。
 
しかし、企業のみの努力や施策には限界があります。労働環境の改善と人手不足の解消を同時に成すためには、より抜本的な解決策が求められています。

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